『マッカートニー』。

ポール・マッカートニー「ザ・ビートルズ解散後、うつ状態だった」 (BARKS) – Yahoo!ニュース

うつ状態だったのいうのはファンであれば、まあそうだったろう、と思うところではないだろうか。正式な解散発表前がされる1年ほど前からジョンはビートルズ関係のレコーディングには参加しなくなり、ポールもスコットランドの農場に篭ってしまった。そして、ビートルズ解散がいよいよ正式なものとなる頃、ポールのソロデビュー作『マッカートニー』は発表された。

元祖宅録と称されるこのアルバムはスコットランドの農場に機材を持込み、ほとんどの作品をポールの演奏のみで仕上げた作品。この後、ポールはウイングスの作品も含め多数のソロ作品を発表するが、私はなんだかんだでこの作品が一番好きだ。確かにサウンドスケッチの様な未完成っぽい曲もあるし、アレンジもこなれていない。しかしながら、宅録ならではのホームメイド感に溢れ、またどの曲もビートルズ時代には感じなかった哀愁に満ちている。『イエスタデイ』の様なクラッシク風のいかにもという感じじゃなく、ポップなんだけどそこはかとない悲しみを感じる、という風情。それに、言ってもビートルズの最後の録音からそれほど時間を空けて作った作品でもないので、要所にビートルズ時代に見せたような天才的なメロディーセンスが散見される。

そんな訳で、事前に上記の様なインフォメーションがなくとも、『マッカートニー』を聴けば、とても寂しい時に作ったんだな、というのがひしひしと伝わってくる。ファンというものは残酷なもので、完全無欠のスターでいて欲しいと思うと同時に、そのスターが血を流しているところを見てみたい、と思うもの。このアルバムで見られるのは、ビートルズのスーパースターのポールではなく、心の傷を負い、それを大して隠そうともしていない一人の人間としてのポール。そういうところにファンはカタルシスを感じるというか、もちろんポールがそんなことを意図するはずもないのだが、結果としてファンがより深く愛する作品になっていると思う。

ところで上記リンクのインタビューで

「僕は結構プライベートな人間で、たくさんを開示するのは好きじゃない。なんで、僕が心の奥で考えていることをみんなが知らなければならないんだ?」

とポールが答えているところがなかなか興味深い。社交的だが皮肉屋でとっつきにくい印象があるジョンに比べれば、ポールはいかにも優等生といった感じだが、そういう人が実はそんなにオープンマインドな人じゃなかったりすると、みんな、こいつ案外イヤなやつだな、と思ってしまうんだよね。また、要所要所で心を閉ざしてしまったり、いきなり痛烈な皮肉を言ったりすると、例えよく知った仲間内でも印象を悪くすることがある。そういう面では一番損する性格だなぁ、と思ったり。

とにかく今年になってロックスターの死亡が多くて、なんだかがっくりきちゃうけど、ポールにはまだまだ頑張って欲しい。ビートルズが実際に生きた時代を共に生きているというのは結構次の世代に自慢出来ることだと思うんだよね。

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