「NHKドキュメンタリー – エマニュエル・トッド 混迷の世界を読み解く」という番組を見た。世界を俯瞰し、様々なデータからエマニュエル・トッドが世界のこれからを予測するという番組内容だったが、内容は、まあある程度は予想できるものであった。
その中で印象的なものとして、中国に対する言及があった。あたかも中国はロシアやその他の共産主義と異なり、いち早く市場経済を取り込むことで発展をなした様に見えるが、それはもっぱら中国の力によるものではなく、アメリカやEU、そして日本によって推し進められたものである、というのがトッド氏の主張。また中国はGDPに対する設備投資比率が40%を超えており、また国内の消費が少ない。比率だけで言えば、まだまだ先進国とは言えないと言う。ただし、中国の市場はあまりに巨大な為、中国の経済が変調を来すと、世界中の経済に重大な危機が訪れる、と警鐘をならしている。
まあ・・・これは割と普通の主張だが、ここで改めてグローバル化された経済の危うさの分かりやすいモデルとして次のようなモデルを説明してくれた。
中国は労働者の賃金がアメリカの約20分の1。そういった労働者が大量にいるため、他の先進国の労働者の給料は安い労働者の賃金に引っ張られて上がらない。賃金が上がらなければ、消費は増えない。先進国での消費が増えないと、中国では労働人口の余剰が起こり、設備投資に回した資金が回収出来ず、中国の経済が傾く。といった負の連鎖。
まあこれが、グローバリズムの限界というか、資本主義の限界というか・・・。安い賃金の国を巡って、今や労働力をミャンマーやタイに求めているが、アジアの賃金の安いところを全て使い尽くしてしまったとき、その後、世界経済はどうなるのだろうか? 労働力をアフリカに求めるのだろうか? 取りあえずの延命処置を延々と続けているようでどうにも見通しが暗い。
後半でトッド氏が言っていたが、やがてなんでも経済、経済と言っている時代は終わる。経済に変わる新たな価値基準が求められる時代が来る。将来、今の時代を振り返った時に、あまりにも経済に気を取られすぎていた時代と映るだろう、という趣旨のことを言っててとても印象的だった。経済の成長を測る指標というのは色々あると思うが、人間の幸福度を測る指標というのはなかなかない。それでも、心のあり方は数値化できない、などと諦めないで、人間の幸福度を測る様々な指標を作り、経済成長率や利益率といった数値より、そちらの数値の上昇を目指す社会、経済的成長よりもより多くの人が幸福でいられることによりプライオリティを置く社会に変化してほしい。
まあ・・・全く簡単ではないことだが、アメリカの異常な大統領選ひとつ見ても、グローバリズムの限界は明らかだ。あのアメリカですら、中間所得者以下の人々が悲鳴を上げ、既存のシステムに反対するためだけにトランプに票を投じようとしている。日本も電通の痛ましい過労自殺と、その後の大規模な捜査を経て、改めて人間らしさとは何か?を真剣に問う社会になってくれればいいが・・・。