監督について
泣く子もだまる今村昌平監督。邦画の監督では一番好きかもしれない。シリアスな映画はもちろん、徹底的に馬鹿な映画も撮れる。凄い人としか言いようがない。
本編評
原爆についての話。原爆投下直後の広島市内の描写のえぐいんだけど、どちらかと言えば、その5年後の遅れて発症する原爆症の恐怖、直接被害を受けなかった人達との温度差、差別などによる二次被害について克明に描写している。原爆の記憶も薄れ、日本全体が高度成長期を迎えようとするなか、原爆症に苦しみ、ひっそりと田舎で死んで行く人々・・・。悲惨、以外に言葉がない。せめてもの救いは、今村昌平監督の声も上げるでもなく原爆の被害に苦しむ人々、家族に対する客観的でありながらも深い悲しみをたたえた視線であろうか。
役者について
北村和夫、出てます。役者と監督として相思相愛なんでしょうね。田中好子の演技がうまい・・・とも思わなかったけどひたむきに演じてる姿はやはり胸を打つ。脇を固める役者は芸達者揃い。小沢昭一、大滝秀治、三木のり平。特に大滝秀治と三木のり平はいつもセットで映画に出てる気がするけど、まあそれだけうまいからね。殿山泰司も出てました。
おすすめ度(★5点満点)
★★★★★
まず日本人なら観ておくべき映画だと思った。道徳的な観点からもそうだが、映画としても迫力があり、今村昌平監督らしいちょっとした笑いもあり、そしてせまりくる恐怖と絶望ありで、冗長な部分が一切ない。楽しめる、と言ったら不謹慎なのかもしれないが、勉強だと思って我慢して観る映画では全くない。この映画の隠れたテーマとなっているであろう、隣近所、同胞からの思わぬ差別や無関心、こういった事が被害者を更に傷つけていて、そこが切ない。ただ、そういったことは今現在も福島を始め、原発被害、津波被害で他所に身を寄せてる人に現実として起こっていることだと思う。そういう意味では、10年前よりむしろ今観た方がタイムリーとも言える内容になっている。
また出来れば世界中の人に観てもらいたい。化学兵器が市井の人々にもたらすとんでもない不幸を。この手の問題に国境はないと思う。そんなことで映画の意義的にも、また作品の完成度としても★5つとしたい。