ダイナーで市井の人たちの忌憚ない意見を聞くという番組(BS1スペシャル「ザ・リアル・ボイス ダイナーからアメリカの本音が聞こえる」)があったのだが、そこで若い黒人女性2人組がインタビューを受けていて、そこで彼女らが語った言葉が非常に印象的だった。
彼女達は熱心なキリスト教徒で、そのうちの一人の話によると、彼女は毎週教会に通っていたのだが、ある日牧師が突然政治の話をしだし、私はトランプを支持すると発言したそうだ。黒人の彼女は、にわかにその場に居づらくなり、教会を後にした。以来、数週間教会には行けていないという。彼女曰く、「トランプはパンドラの箱を開けてしまった。これまで黙っていた人たちが突然自分の意見を表明するようになった。一人なら何も言わないが、10人と集まると、途端に声高に自分の主張を唱え始める。」(うろ覚え)という様なことを言い、人種、宗教、それぞれの価値観について、突然それぞれのアイデンティティが衝突し始めたことに戸惑いを覚えている様子だった。
もう一人の彼女は「ひとりの人間でアメリカをグレートにすることは出来ないが、ひとりの人間でアメリカを最悪にすることは出来る。」とトランプ並びにトランプ現象について強い警戒感を露わにしていた。
アメリカのダウ平均株価は初めて2万ドルを超える、など経済対策には期待が集まっているようだが、その実、どうなのだろうか? グローバリゼーションを誰よりも推進し、その恩恵を真っ先に受けていたのはアメリカに他ならないと思うが、自らその道を閉ざす、ということであれば、行き着く先は暗いと思う。IT企業の成長に陰りが見え、製造業も思ったほど回復せず、で、一気にトランプの経済対策に対する不満が噴出するような事態に陥る気がする。
それ以上に、先の黒人女性が言った、パンドラの箱を開けてしまった、というのは気がかりだ。行き過ぎた排他主義がまかり通る社会。それがコミュニティの分断を生み、やがて決定的な対立を生む。一旦分断への方向へ針が振れれば、もう元には当分戻れない気がする。
ある経済学者が、歴史的に見れば、経済はグローバル化と保護主義的貿易の間を行ったり来たりしていて、トランプの現象もその揺り戻しのひとつにすぎないという話をしていたが、仮に経済はそうだとしても、人種間、階級間の分断というのは、行き着くところまでいかないと、逆の方向には戻ってこない気がする。アメリカには早くもそういう閉塞的なきな臭い空気が流れ始めていて怖い。