【しがない映画評・その11】 時をかける少女(1983)

監督について
大林宣彦監督。うーん、マンダム。お得意の特殊撮影もそればかりが目立つことなく非常に効果的に使われている。

役者について
上原謙、尾美としのり、岸部一徳など出ているが、基本的には原田知世しか写ってない映画と言っても過言ではない。

本編評
実は・・・今回初めて観たんだけど、これは凄い。完璧なアイドル映画だ。アイドル映画と書くとひたすら主演のアイドルが可愛く撮れてるだけで、内容は無に等しい、といったものを想像する方もおられると思うが、この作品はさにあらず。もちろん主演の原田知世はとても魅力的に撮られているのだが、その一方で、タイム・リープというテーマに沿って、時間、空間、記憶、忘却、そして死というテーマがしっかり描かれている。映画全体のトーンとしては意外と重い。

後、舞台の尾道が良い。とっても絵になるし、場所自体が現代と、土着的な文化を残した戦前のちょうど真ん中にいるような空間で、ホコリ臭いような陰鬱な空気が漂っている。また、尾道の様な田舎だから、当時の原田知世の様な多くの男子にとって理想となるような少女が存在可能だったと思う。東京が舞台では、あそこまでピュアな設定の少女だと浮いてしまっただろう。また主人公達の狭い行動範囲を象徴するような尾道の急坂に家が密集している箱庭感も良い。

そして・・・なんと言ってもラストシーン。エンディングテーマが映画と同名の『時をかける少女』で、これを映画のそれぞれのシーンをバックに原田知世が歌う(笑) 最初は「えっ!」って思ったけど、これがまたいい。あれだけ話を作り込んでおきながら、結局は、本編もエンディングで原田知世をより良く見せるための前フリに過ぎなかったという・・・。切ないストーリー、美しい尾道のシーンの数々、そしてユーミンの作った名曲を原田知世が歌う。これを公開当時に見てたら完全に原田知世のファンになってたわ。

おすすめ度(★5点満点)
★★★★★

大林宣彦監督が「原田知世が30歳、40歳、50歳となって一人で見返した時に懐かしく見られる様な映画にした」という趣旨の発言をしていたが、角川春樹と大林宣彦という二人の大人が15歳の原田知世という無名の少女に惚れ込んで彼女のためだけ作ったような映画で、現実の世界には存在しない架空の完璧な少女を追い求めた結果が、この完璧なアイドル映画へと結実した。

また原田知世ももちろんいいのだが、この映画では邪悪な人間は全く出てこず、ひたすらロマンチックで切ない、しかしどこか呑気な学園生活、こんな学生生活を送れたらさぞ楽しかっただろう、という日本人にとっての理想的な郷愁というか、そういった夢の世界が展開されてて、そこにも惹かれる。

そういうことで、甘ったるい映画と切り捨てる人もいるかもしれないが、色んな意味で胸キュンしてしまう素晴らしい映画だと思う。

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