ノーベル文学賞受賞を受けての、改めてのカズオ・イシグロ。

カズオ・イシグロがノーベル文学賞受賞した、というニュースを聞いて、久々におおーっと思った。と言っても彼の作品の全てを読むほどの熱心なファンではないのだが、それでも読んだ『日の名残り』『わたしを離さないで』そして目下の最新作である『忘れられた巨人』、どれも非常に印象深い作品でいまや新作に一番期待を持っている作家と言っても過言ではない。(別に彼がノーベル文学賞を取ったから言う訳ではない(笑) 念のため)

で、私もブログでカズオ・イシグロについて何か書いていたんじゃないか、と探したら、Eテレで以前やっていた「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」についてまとめた記事を書いていた。

Eテレ「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」を見て | 馬鹿ラッチ2.1

その記事を見ると我ながらよくまとまってるな、と感心するのだが(笑)、それはともかく、そこで彼は非常に正直に小説を書くための彼なりのテクニックというか信条について語っていて、私が特になるほど、と思ったのが、”嘘をつく記憶”だ。その小説の中の世界のことを知らない我々は、主人公が昔こうだった、こんなことがあったと述べれば、それを素直に信じるしかないのだが、実は主人公が語る記憶というのは、主人公にとっての都合のいい形に作り替えられた記憶で、物語が進み、主人公がこれまできちんと向かい合えなかった現実を受け入れることで、改めて主人公の記憶も都合の悪い部分も含めて改められる、といった具合に、過去というのもは既に定まって決して動かないものではなく、主人公の現在の立場や、考え方によって不確かに形を変えてしまう、という考え方。なるほど確かに言われてみればその通りで、過去に起こった事実というのは変えられないが、過去に起こった事実に対する評価、イメージというのは移ろっていくものである。そのあたりの記憶に対するアプローチがカズオ・イシグロは絶妙で、おそらく下手な作家であれば、現在の主人公の感情表現は主観的なのに、過去の事実に対してはえらい客観的に書いてしまう、というミスをしてしまうのだろうが、カズオ・イシグロはその”嘘をつく記憶”を注意深く物語の進行具合に絡めて変化させている。

まあ、その辺りの詳しい話は前に書いたリンク先の記事を読んでもらえるとありがたい。

そんなに小説を読まない私がカズオ・イシグロを知ったのは、これはご多分に漏れずというべきか村上春樹がやたらと同世代作家として新作が出たら真っ先に読む作家として彼のことを推しまくっていたからだ。私自身は一時期はいわゆる”ハルキスト”と言っても過言ではないぐらい村上春樹にかぶれた時期があって(しかしハルキストというのは嫌な呼び方だね(笑))、その村上春樹は英米文学が好きなもんだから、そんな彼に倣ってカポーティだのなんだのと読んだが、結局、一番気にいったのはカズオ・イシグロだった。で、代表作である『日の名残り』『わたしを離さないで』を読んで、新作の『忘れられた巨人』をハードカバーで買ったのだが、読んだら、いきなりドラゴンを退治し行く、みたいなドラゴンクエストみたいな話で、かなり面食らった。結局、『忘れられた巨人』もより過去の記憶をクローズアップしたカズオ・イシグロらしい作品ではあったのだが、60歳を手前にしていきなりファンタシー小説を書くっていうチャレンジ精神に恐れ入って、そこへいくと残念なら村上春樹の新作はずっと同じ場所に留まっている気がして、やはり今一番新作が気になる作家は、ノーベル文学賞とか関係なくカズオ・イシグロなのである。

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さて、話はガクッと俗っぽくなるが、NHKがカズオ・イシグロのノーベル文学賞受賞を受けて、彼の長崎での幼少期を知っているという叔母だかなんだかにインタビューしていたが、なんなんだろね、あれ。カズオ・イシグロの文学のどの辺りが評価されたのか、なんていう解説はほんのちょっとで、後はカズオ・イシグロがいかに日本とゆかりがあるか、という話ばっかり。確かにカズオ・イシグロの両親は日本人だが、作風をみても、彼の話している時の仕草などを見ても、完全にイギリス人のそれだから。まあ日本を舞台にした初期の2作を読んでないので、完全にイギリス人と断定するのもあれだが、そんなに日本と関連があることが大事か、と。

その流れで行くと、ノーベル物理学賞、医学賞でもなんでもいいが、日本人が受賞しても、肝心のその人がどのような業績を立てて、現在その分野ではどのようなことが最先端なのか、という話はほんの少しするだけで、後は、幼い頃の彼はどうだっただのなんだのとそんな話ばっかり。視聴者を馬鹿にしてんのか、と言いたくなる。

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そんなことなので、おそらくカズオ・イシグロも”日本では”これを機に現代を代表する作家として定着することなく、ブームもすぐ去るであろう。正直に言えば、普段小説を読まない人がブームに乗って読むにしては、カズオ・イシグロはほんの少しだけだが難しいというか退屈に感じると思う。ただ、腹がたつのが、そういえばこれを気にカズオ・イシグロの過去の作品を読んでみようとAmazonを覗いたら(結局、私もブームに乗っているのだが・・・)、一冊も在庫がないことである。みんなブーム追いすぎでしょ(笑)

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