NHK BS 犬神家の一族を見て

NHK BSで放送された犬神家の一族を見終えた。

演出はオーソドックスで奇をてらうものではなく、一貫して落ち着いたトーンで良かった。横溝正史得意の”見立て殺人”のシーンなどは映像的には最もおいしいシーンともいえるが、そこだけ特別クローズアップされることなく割と淡々と編集されており、それはそれで異様さが浮き彫りになって良かったと思う。優れた前作があるなかで、違和感なく見られるというのは、実際には相当の経験と技術がないと出来ないことなのではないかと。

出演者について(サッカー風に採点付き。10点満点)

金田一耕助役の吉岡秀隆 – 7点
金田一が吉岡秀隆であることに文句はないが、キョドるシーンはどの他の映像見ても一緒だなと(笑)
優しさと人の良さが金田一の特長だからそこは合っているが、一応金田一も戦地帰りの人間だから、吉岡の現代っ子っぽさは少しマッチしないと思った。ただ主役の格という意味では存在感はちゃんとあったと思う。

松子役の大竹しのぶ – 7点
こんなキツイ女の人、世代問わず意外といるよなーと思いながら見てた(笑) そつなくこなしたという印象だったが、これだけの重たい役(主役級の役所といい、過去の名優と比べられるという重圧といい)をこなせるのは、あまり他に思い浮かばないかなと。

竹子役の南果歩 – 6点
息子を殺害されて、叫び狂うという難しい役所だったが、正直もうちょっと頑張れ、と思ってしまった。下手っていう訳ではないが・・・

梅子役の堀内敬子 -6.5点
今回のドラマで初めて見た。良くも悪くも舞台女優っぽいな、と。

古館恭三役の皆川猿時 – 8.5点
なにげにこの人が一番良かった。物語のキーとなる犬神佐兵衛の遺言状を管理しているのもこの人だし、金田一の隣で推理を常に聞かされるのもこの人だからかなり重要な役。それを昭和の喜劇俳優よろしく、少しおかしみがありながらも、しっかりとドラマに重みを与えていた。

その他若手俳優 – 7点
キリがないので、ひとまとめにしてしまうが、珠世や佐清はじめ3姉妹の息子達、みんな個性があり、また演技もうまかったと思う。

その他ベテラン俳優 – 5.5点
どういうんだろ。白髪頭ではあるが、総じて顔が幼いというか、アクがないというか。昭和の俳優達とはここの層が一番違うな、と正直感じてしまった。

エンディングについて

最後に新解釈というか、賛否の残るシーンを放り込んで来た。名作たる本作にたかだか一介の(と敢えて言わせてもらうが)脚本家がそこまで自分の色を出してしまっていいのか、という思いもありつつ、まあでも、リメイクするならこれぐらいのことしないといまわざわざリメイクする意味ないよね、と納得する部分もあり・・・

まあそれはともかくとして、連続殺人、醜い遺産争いの裏に、求めても決して得られなかった夫からの愛情、親からの愛情、それらが憎しみとなって我が身に帰ってくる悲劇というのにきちんとフォーカスがあっていて、全体的によい脚本だったと思う。

本作について(※ネタバレあり)

娯楽探偵小説なのだが、一族の業みたいのが深すぎて、そら殺人事件も起こるわな、と妙に納得させられてしまう。犬神佐兵衛で言えば、恩人の神主と衆道の契り・・・つまり男色の関係になってしまい、さらに女性に対して不能の神主の妻と関係を持ち、女児を授かる・・・という業の深さ。

しかしこの戦後すぐというのは、物語の舞台としてはかなり魅力的で、現在では到底容認されない地方の名士、成り上がり達の横暴が許され、また戦前からの土着的な民俗風習が色濃く残っていたりして、そこから深い深い因縁が発生する。

そこをうまくテーマとして作品に取り込んだ横溝正史は改めて偉大な作家であったなと。

余談

松子、竹子、梅子っ姉妹でもないのに(姉妹でもたいがいだが(^^))、名前凄いなと。最初の女性以外誰も愛さなかった佐兵衛がふざけてそれぞれと関係持ったのかなと邪推さえしてしまう。

斧(ヨキ)琴菊が犬神家の家宝で、それになぞらえて見立て殺人が行われるが、最後の佐清(すけきよ)だけ、死体の周りに斧がなかったが、原作では湖に下半身だけ浮き出た佐清を読みを逆にすると「ヨキケス」、しかも下半身しか湖の上部に露出してないからそれをもって「ヨキ」となると金田一が説明していて、ロジックは凄いが、そんな馬鹿な!と流石に思ってしまった。大体金田一には一族への復讐と分からせるための見立て殺人がよく行われるが、個人的には一族への復讐=見立て殺人という思考経路がよく分からない(^^)

まあでも、名作って、それは流石になくないか?というツッコミどころも意外とあって、そんなところですら、読者、視聴者を楽しませてくれるんだから、本当に凄い。


コロナ期の読書。 カミュ「ペスト」他

たまには本の話でもしよう。

最近、私にしては珍しく本を読んでいる。備忘録代わりに読んだ本の紹介でもしていこうか。

カミュ「ペスト」

created by Rinker
¥742 (2024/11/22 17:25:49時点 Amazon調べ-詳細)

コロナウイルスが流行ってからまた読まれだした本。私も流行に乗って読んでみた。

群集心理の描写が巧み。コロナの発生から終息まで、おそらくこの小説通りの群集心理が働くのではないかと思った。もっともペストは封鎖された都市での話だが。

カミュは無神論者ということだが、ペストという異常事態下において、神の存在とか、それぞれの行動の悪意、善意と信心についてなどが丁寧に書かれていて面白かった。無神論者による宗教の検証というのが興味深い。

ヴィクトール・フランクル「夜と霧」

created by Rinker
¥1,320 (2024/11/22 17:29:12時点 Amazon調べ-詳細)

ユダヤ人の精神科医、フランクルがナチスによって強制収容所に収監された時の克明な記録。

善悪、私情をなるべく排したドキュメンタリー・タッチの記述が逆に恐ろしさを際立させる。精神科医ならではの観察が素晴らしく、極限における人間の行動がよく分かる。

まあ名著には違いないが、再読したいか?と問われれば・・・それほど結構読み進めるがつらい。
続きを読む

ノーベル文学賞受賞を受けての、改めてのカズオ・イシグロ。

カズオ・イシグロがノーベル文学賞受賞した、というニュースを聞いて、久々におおーっと思った。と言っても彼の作品の全てを読むほどの熱心なファンではないのだが、それでも読んだ『日の名残り』『わたしを離さないで』そして目下の最新作である『忘れられた巨人』、どれも非常に印象深い作品でいまや新作に一番期待を持っている作家と言っても過言ではない。(別に彼がノーベル文学賞を取ったから言う訳ではない(笑) 念のため)
続きを読む

分からないなら黙っとけばいいのに。

「かっこつけてんじゃねえよ!」 太田光、村上春樹批判の徹底ぶり (J-CASTニュース) – Yahoo!ニュース

ご多分に漏れず買ったよ、村上春樹の『騎士団長殺し』。ところがまあ、ネットでの反応見ると、理解できないだの、ノーベル賞狙いだの、大半が批判コメントで悲しくなる。しかしNHKも村上春樹の特集するのにわざわざ太田光呼ぶかね? もちろん批判があっていいんだけど、特集するのにその作家に全く好意的じゃないゲスト呼ぶ、って時点でなんか偏った視点の番組だな、って思ってしまう。

まあうちのカミさんも『ノルウェイの森』読んで、性的な描写が嫌だと言って受け付けなかったようだし、まあ理解出来ないなら、それはそれでいいのよ。だけども、まるで鬼の首を取ったように批判の嵐だもんなあ。逆に愛読者の俺がいわゆるハルキストなる気持ちの悪いやつなのか、と落ち込んでしまうわ。
続きを読む

「ムーン・パレス」

 
ポール・オースターの「ムーン・パレス」を読み終わった。好きな小説のベスト10ぐらいは大体20歳代ぐらいに読んだ本で終わってて(多分想い出補正も大分ある)、その後、読んだ小説が個人的なベスト10に入ってくることはなかったが、この本は、久々にそのベスト10の、それも上位に食い込んで来た感じ。なんかこうして私によって読まれていない素晴らしい小説がまだまだあるんだとしたら、世の中もそんなに捨てたもんじゃない、と変な希望が湧いて来た。

さてその内容は・・・と言っても、なんか色々書くのが野暮な気がする。探せば、優れたレビューもいっぱい見つかるし。だから、ただ面白かった、とだけ書き残しておきたい。

スーパープレミアム「獄門島」を見て。【※盛大にネタバレあり】

 
感想をウェブ上にあげるにはちょっと遅きに失っしている感もあるが、先日NHK BSで放送されていた「獄門島」を見た感想を書こうと思う。市川崑監督、石坂浩二主演の金田一シリーズが強烈な印象として残っているから、どんなもんだろうか?と思ってみたが、まあ・・・全体としてはギリギリ合格点?
続きを読む