【しがない映画評・その16】彼女がその名を知らない鳥たち


いつも映画評は定型の表をつかって書いているのだが、今回はフリーフォームで書きたい。白石和彌監督作品を見るのはこれで3作目。白石和彌監督作品を見るのは多少訳があって、撮影の灰原隆裕氏とちょっとした知り合いだからだ。ま、取りあえずそれは置いておいて(といっても完全に客観的には見れてないかもしれない)、作品の感想を正直に書きたい。あ、後、ネタバレ盛大にあり、で。

全般的には・・・だれるシーンがほとんどなく大変楽しめた。特に良かったのは、主演の阿部サダヲ扮する佐野陣治が実は殺人を犯してるんじゃないか?と疑惑を持たせ、さらに死体遺棄を告白させ、こりゃほんとにやべーやつだ!と思わせながら、最後にどんでん返しがあるところ。この手のミスリードって古今の小説、映画で定番の手法だけど、流石に陣治が死体遺棄を告白したところの念押しで完全に騙された。これは見事だなぁ。

蒼井優と阿部サダヲはうまいよな。蒼井優扮する十和子は設定からある程度若く、さらに性的な魅力もないといけない人物で、また作品内容からいってダイコンでは台無しになってしまう役柄なので難しい役所だが、蒼井優はそれをほぼ完璧にこなしていたと思う。この映画を見るまでは蒼井優は色気に関しては乏しいと思っていたが、この映画の中で描かれているように市井にいる普通の若い女性としてみれば、綺麗で、妙に色っぽく、主に性的魅力と醸し出される孤独さゆえに異性を惹きつけるこの役所にぴったり嵌まっていると思った。後、個人的には松坂桃李がかなり良かった。松坂桃李についてはまた後段で触れたい。

これはちょっと?と思ったところ。
最後、佐野陣治が死んでしまうんだけど、え?なんで?と正直思った。人に生きろと言っておきながら、自分は死ぬんかい!と。多分・・・原作の小説読んでないけどきっと原作通りなのでしょう。だけどこれはあくまで私の解釈であるが、リアルな映画として見せるのであれば陣治が死ぬのはちょっと腑に落ちない。静かに十和子の肩を抱き寄せてそれで終わりで良かったと思う。ただ一方であくまで寓話的に見せたいのであればああいうエンディングで良かったのかとも思う。ただその割には竹野内豊扮する黒崎や松坂桃李扮する水島が妙にリアルに見えたから、その中にあって陣治だけがファンタジーの中の人間ってどうなんだろう?と。まあだからこそ陣治の無償の愛が引き立つって見方もありましょうが。
後、陣治が死ぬ前の十和子が走馬燈のようにみる夢のシーンはワンカットずつちょっと長いように思えた。観客が見てないシーンはそれなり尺を取る必要があるが、観客がすでに見たシーンは、パンパンと最後に向かってどんどんテンポが速まるような演出が良かったかなぁ、と。まあ、細かいことだけど。

ここで一気に下世話な話。
で、結局蒼井優は乳見せんのかい!と(笑) あれだけ濡れ場があって乳首が見えてないってなんなの?と(笑) 蒼井優側の都合なのか、それとも制作陣がこの映画を蒼井優が初めて乳出した映画という下品な見られ方をしたくない、と配慮したのか・・・その辺は分からないけど、70年台の日本映画とか見ると大女優が結構思いっきり脱いでるから、正直違和感は残った。別に蒼井優の乳が見たかったとかそういう話ではなく(笑) まあその辺はよくも悪くも時代かな、と。

さて気を取りなして、松坂桃李の話。この映画を嫁さんと見たんだけど、嫁さんが、松坂桃李扮する水島がもっと悪いやつだったら良かったと言っていたのだが、そこで私はそれでは映画が台無しになる、と反論したのであった。もっとも最後まで納得してもらえなかったのだが・・・。私が思うに十和子は黒崎に散々酷い目に遭わされて、それこそ自分が黒崎を殺したことを忘れるぐらい精神的ショックを受けた訳である。彼女は黒崎から受けた仕打ちに対するショックが例え黒崎を殺した記憶をきれいさっぱり忘れてしまったと言えども、やはり傷は深く、ゆえに水島のような悪党とも言えない、ナンパ師に黒崎を重ねて犯行を重ねてしまったのである。水島が単なる軽薄な男であることは十和子も重々承知していて、それは水島が十和子に渡した時計が安物であったことや、水島が砂漠に行ったときの話がそのままガイドブックにある文句そのままであったことを知ってしまったときの描写で念押しして描かれている。そんな軽薄な男と知りながらも十和子はしらずしらずのうちに水島の中に黒崎の影を追い求めてしまい、水島の小さな裏切りは黒崎のそれに比べれば実に可愛いものだが、それでも凶行に及んでしまう。そこに悲劇があるのであって、水島が黒崎並みに悪いやつであれば、これはただ単に2度酷い目にあってしまった運の無い女、ということになってしまう。この2つのシチュエーションは似ているようで、実は前者の方がより悲劇的であると思うのだが、いかがだろうか?

ま、とにかくそんことで楽しんで見ました。白石監督の最新作である『孤狼の血』は映画館でみて(この映画はAmazonプライムで借りてみた)、それに対する感想もあるが、それはまた機会があれば書きたい。

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