押井守監督のメッセージ。

押井守監督の「スカイ・クロラ」という映画はもう公開されているのだろうか? それはちょっと知らないが、この前NHKで押井守監督のスペシャル番組をやっていた。今度の押井作品は初めて若者に向けたメッセージをこめた作品になっているらしい。番組の終盤で、今回の「スカイ・クロラ」の試写を大学のキャンパスでやっている様子が紹介され、最後に押井監督が大学生に向けて大体こんなようなことを言っていた。

「生きてるって苦しいよね。重く、よどんで、真綿で首を絞められるような苦しみがある。君たちはちょうどその苦しい人生をスタートしたばかりだ。しかしながら、自分は55歳を超えたある時から、自分はその人生を一周終えてしまったと思った。一周先に周った人間として、僕が君たちに言いたいのは、生きるってそんなに悪いもんじゃないぜ、ということ。」

?

もうちょっと簡潔な言葉で語っていたような気がするが、とにかく、生きるってのは苦しい、と、大学生に向かって素直に言ってしまう点が凄い、というか正直だなぁ、と思った。

思い返してみると、小学生の時は、暑かろうが、寒かろうが、とにかく飽きるまで遊んで、肉体的に疲れることはあっても人生に対して疲れる、という感覚は皆無であった。しかしながら、大学生ぐらいともなると、就職活動で、慣れない敬語を使い、社会人とも接触を持ち、それにともない、今までそれほど興味のなかった世間に目を向けてみると、こんなに世知辛い世界に自分も飛び込むのか、と思って、暗澹たる気持ちになった。そして今では一応まっとうな社会人面はしているが、違和感みたいなものはぬぐいきれないでいる。

・・・ま、そんな私のことはともかく、大学生ぐらいの年代がちょうど「生きるって苦しい」と実感し始める世代だと思う。中学・高校でもそういった感覚を持つ人はいると思うがそれはもう少し視野の狭い実感ではなかろうか。

そんなわけで、最初の試写の場所に大学のキャンパスを選び、そして試写の後、大学生に向けて実際のメッセージを送った押井監督は、これまでとは違い、勝手に支持されるのではなく、かなり真剣に自分から若者にコミットしようとしているように見えた。そんな監督の姿勢の変化は映画にもきっと表れているのだろう。人間、何かを得れば、何かを失う。おそらく、これまで支持されたテイストの一部は失われ、新たな、きっと前向きなメッセージが映画にこめられているのではなかろうか。

とにかく、番組を見て、かなりこの映画が観たくなってしまった。苦しいとか甘ったれたこと言ってるな、とか、いう考えの監督の作品はあまり観たくないが、若いときは苦しくて当然だし、歳をとっても苦しいが、それでも生きてみる、生き続けてみる、ってのは結構いいもんだぜ、という、おしつけがましくない意見を持つ監督が、どんなイメージを若者にぶつけようとしているのか。やっぱり気になるなぁ。

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