【しがない映画評・その5】 スケアクロウ

 
役者について
主役はアル・パチーノとジーン・ハックマン。アル・パチーノはこの時期「ゴッドファーザー」「セルピコ」「ゴッドファーザー Part II」と自身の代名詞となる映画に立て続けに出ていて、すっかりマフィアやチンピラのイメージがついてしまったが、そんな最中、本作では、気弱でおどけた青年を見事に演じきっていて、アル・パチーノの役者としての幅の広さを感じされられた。アル・パチーノが大声で人を怒鳴りつけない唯一の映画? まあいずれにしても、本作でも素晴らしい演技を見せたにもかかわらず、最初に挙げた3作が名作過ぎたがゆえ、その後しばらく幅広い役が回って来なかったのは残念ではある。ジーン・ハックマンは見たままのジーン・ハックマン(笑) 一気にスターダムにのし上がったアル・パチーノに存在感で全く負けてないのは流石。

本編評
下層階級の二人が、叶う可能性の低いアメリカン・ドリームを追い求める、いわゆるアメリカン・ニューシネマに属するとされる作品。この映画を見ながら真っ先に比較される映画として頭に浮かんだのが「イージー・ライダー」。衝撃的なラストシーンもどことなく印象が被る。登場人物の設定やストーリーに若干の雑さが感じられない訳でもないが、この当時の下層階級の人間像や時代背景はきっちり捉えられており、それらがもたらすリアリティの前には多少の設定の雑さも気にならなくなる。以下、ネタバレ。

対面を期待していた自分の子供が、死産したとの嘘を告げられ、そこから狂っていくアル・パチーノの演技が凄い。心の弱さを持ち前の道化で乗り切って来た彼が、最後の最後に精神崩壊を果たすシーンが美しくもも悲しい。無頼漢のジーン・ハックマンが最後の最後に見せる信頼と愛情も映画の哀しみにより彩りを添える。

おすすめ度(★5点満点)
★★★★☆

いい映画だよね。60年代後半から始まる一連のアメリカン・ニューシネマと言われるやつを、そんなに数を見てる訳じゃないんだけど、それでもアメリカン・ニューシネマの作品群に外れがひとつもないように思うし、この作品も心に残る良い作品だと思った。この時期(1960年代後半〜1970年代後半)の時代の閉塞感・停滞感というのは、格差社会が目に見えてはっきりしてきた現在と、かなり似てきている感じがして、今自分がアッパークラスにないと自覚してる人々にとってはタイムリーに心に訴えかける作品なのではないかと思った。

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