監督について
「八つ墓村」は映画版だけでもいろいろあるが、私が見たのは、野村芳太郎監督版。そんなに映画見ない私が、本当はあれこれ書けるはずもなく(笑)、野村芳太郎監督の作品も他に「砂の器」しか見てないんだけど、野村監督は日本の農村の風景の描写がちょっと他の人とは違うな、と。「砂の器」もそうだが、都会と田舎の描写の対比があって、それがより一層、日本を美しく見せるというか、演出よりなによりまずそこに目がいく。
本編評
大人になった今になって見ても、思った以上に怖かったな、というのが正直な印象(笑) これは子供の時分にみたら間違いなくトラウマになる。市川崑監督の金田一シリーズは今見るとおどろおどろしいというよりは、結構スタイリッシュでスマートな感じがするが、野村監督の金田一は、しっかり土着でおどろおどろしい。生首が笑い出したり、とか、有名な山崎努がはちまきにろうそく二本立てて、疾走するシーンとか、よくよく考えれば馬鹿馬鹿しいぐらいなんだけど、何より全編映像が美しいし、日本らしい土着感で言えば、野村監督の方がいい味出してるかもしれない。それにしても、落ち武者、地元農民との邂逅、そして農民の裏切り、それが400年の時を超えた呪いとなって現在の八つ墓村に蘇る・・・こんな完璧な日本らしいホラーのシナリオが他にあるだろうか。
後、是非見ておきたいのが、昭和50年代の田舎の風景。いや風景は今でも変わらないところはあるだろうが、特に風習や因習。田舎の葬式、主従関係、埋葬方法など、2016年の現在では考えられないような風習がまだまだ残っていた時代なんだと、と強く印象づけられた。まだまだ都会と田舎に本当に文化レベルでの違いがあった頃の日本が舞台となっている、というのが、またこの作品を一層面白くさせている。
役者について
まず金田一耕助が渥美清という点なのだが、最初に画面に出て来た時はかなりの違和感があったが、この「八つ墓村」に限っての金田一の立ち位置から言えば適役であった様に思う。というのも、今回の金田一は殺人を未然に防げないのは相変わらずだが(笑)、いつにもまして能動的ではなく、ストーリーテラーとしての役割が強い。そういう意味で、落ち着きのある演技の渥美清は良かった。ただ、渥美清のせいでは全くないが、今現在も洞窟の中で殺人が起こっているかもしれないのに、洞窟の入り口で住民相手に暢気に謎解きをしてみせる金田一というのは流石に間が抜けすぎてるな、とは思った(笑)
田治見家の跡取りとして事件に巻き込まれる辰弥役の萩原健一。野性味があってなかなか良かった。なにか特別な演技をするわけでもないんだけども主役らしい存在感があって、若いのに映画に重厚感を与えるのに一役買っていた。最後・・・になってしまう小川眞由美も見事。今40歳ぐらいでこれだけ色気もあって、更に重厚な演技も出来る女優っているかねぇ? いやー全く思い浮かばない。他にも、大滝秀治、花沢徳衛、下條正巳(息子の下條アトムも巡査役で出演)、加藤嘉・・・昔の役者は凄いな、と普通に感心する。それに、忘れていけないのが山崎努。顔だけでも十分怖いのに(笑)、狂った田治見要蔵となって疾走する姿には流石におしっこちびる。まあ、この当時のオールスターキャストとも言えるこの役者陣の演技を見るだけでも価値があると思う。
おすすめ度(★5点満点)
★★★★☆
ホラーということで人を選ぶのと、原作の人間関係が複雑すぎるという点もあったらしいが、最後の金田一の謎解きにカタルシスがあまりないところで、★ひとつマイナス、というところだが、それを除けば素晴らしい映画だと思う。完全な大衆娯楽でもないし、かといって人を選ぶ芸術作品でもない。その絶妙なラインで見せてるのが凄いなぁ、と。野村芳太郎監督の映画はもうちょっと見とかないとな、と思った。