【しがない映画評・その9】太陽を盗んだ男

 
監督について
長谷川和彦監督作品。初めて見た。調べたら1979年のこの映画以来、監督作品はないらしい。なんともったいない。

役者について
沢田研二、菅原文太、池上季実子。全員が若く色っぽい。敢えて誰かひとりと言えばやっぱり主演の沢田研二がいい。ジュリーが主演じゃなければ、ここまで都会的、かつ退廃的な映画にならなかっただろう。

本編評
中学教師である城戸(沢田研二)が、東海村から液体プルトニウムを盗み出し、手製の原子爆弾を作ってしまう・・・という話。とは言っても、狂気のマッドサイエンティストが世界征服を企む、とかそういう話では全く無く、原爆を手中に政府を脅しながら、その実、自分自身が何を望んでいるのか全く分からず、最初の国家への要求は、9時ぴったりで放送が終わってしまうナイターの放送を延長させることだった・・・。

2017年の現在においては、妙な形で再度原子力に注目が集まってしまったが、そのことを除いても、エネルギーを持て余しつつも、自分でもこの先どうなりたいのか全く分からない若者の心理、そういった人間の目からみた若者が生きる現在の社会の有り様、という話は普遍的なテーマで、今見ても全く古さを感じない。(一方、そこらじゅうにある公衆電話、当時の渋谷の町並み、走ってるクルマなどは懐かしかったが・・・) また、演出やBGMもかっこよく、そして古いタイプの日本人の代表として出ている山下警部(菅原文太)までもが、長谷川監督の手にかかるととてもお洒落に見える。

当時の若者は『しらけ世代』などと言われ、それを考えると城戸はその代表にも見えるが、ある意味全ての若者を代表している存在でもあり、その城戸を通して、当時の東京を少し軽薄に、お洒落に、かなりマッドに、しかしながらどこかしら共感を覚える上質な映画にまとめあげた長谷川監督の手腕は見事としか言いようがない。

ツッコミどころ
映画の全体を見れば瑣末なところなのだが、それでもツッコまずにはいられない場面がこの映画には多々ある。それをいくつか挙げたい。(かなりネタバレあり)

割と簡単に盗めたプルトニウム
拳銃一丁の素人ひとりに簡単にプルトニウムを盗まれては困る。どんな警備体制なのか。

原爆を取り戻しに来た城戸
一旦警察に奪われた原爆を取り戻すべく、警察ビルの窓をターザンスタイルで蹴破り、奪取に成功。そしてターザンスタイルで再び警察を脱出。んなアホな。

なかなか死なない山下警部
上空のヘリコプターから20Mほど落下したが、骨折ひとつしない山下警部。更には最後城戸に至近距離から胸を撃たれたが、まだ死なない。まさに不死身。

女性DJより無能な警察
城戸は国家への要求を女性DJ(池上季実子)からリスナーへの問いかけによって募集するのだが、やがて女性DJは公開放送を見に来ていた城戸を犯人と見抜き、城戸に接近する。・・・いやいや、警察なにしとんねん(笑) 女性DJを普通見張っとくだろ。

他にも色々あるが、これだけあらがあると、逆にわざとかな?と勘ぐりたくもなってしまう。これらも立派にこの映画の魅力のひとつ。

おすすめ度(★5点満点)
★★★★★
思わぬ長文になってしまったことからもお察しの通り、かなり満足の行く映画だった。映像と印象が深く心に残る良い映画。この手のポップな手触りの優秀な邦画って、他にそれほど多くはないと思う。

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