監督について
佐藤純彌監督。ウィキペディアで見たら、続編ではないが次の「野生の証明」もこの監督で、「君よ憤怒の河を渉れ」から「北京原人」まで、なんというか手広くやってる(笑) 撮影スタイルに特別なものはないと思うが、大変見やすかった。変に個性を出しすぎないというのも立派な職人の仕事。
役者について
1977年の映画なので懐かしい人がいっぱい出てる。松田優作、鶴田浩二、三船敏郎、ハナ肇、伴淳三郎、地井武男・・・舞台の一方はニューヨークなのだが、「裸のガンを持つ男」などに出ていたジョージ・ケネディ等アメリカの俳優も出演している。
それぞれのキャストが個性的な演技をしているが、特に良かったのは岡田茉莉子と岩城滉一の親子だったろうか。岡田茉莉子は「Wの悲劇」の三田佳子並に重要な役どころで、重い役どころをしっかりと演じている。まあ昔の俳優は上手いし、独特の重みがある。テレビ俳優にはない重みというか・・・今の俳優ってなんか軽いよね。言葉ではこううまく表現仕切れないが・・・
本編評
冒頭、ニューヨークのシーンから始まってしばらく日本人抜きで話が進むが、普通に洋画を観ているかの様に違和感がなかった。ところが日本のシーンに移ると、もうモロにこの当時の日本。都会は高度成長の真っ只中だが、田舎はまだ精神的にも都会からの影響は薄く、また今の日本の様に田舎の街道にまで都会でよく見る店舗がある、と言った感じではない、都会からの資本も届いてきていないという70年代独特の空気。脚本も50~60歳代のキャスト達が大戦時に20歳を過ぎてる設定で、それらの年代の人々は戦後の混乱で人生を変えられてしまった人ばっかり。話は割とベタでかなりご都合主義的な展開もあるのだが、それぞれに戦争で人生を狂わされた、あるいは戦後のどさくさがあったせいで立身出世が出来たという人達が、結局はそれぞれの過去が原因で人生を狂わされてしまう、といったストーリーなので、物語全体に重厚感がある。
ラストシーンで刑事と犯人が対峙する場面があるのだが、そこで犯人が滔々と心情を語ってしまうようでは2時間ドラマと変わらなくなってしまうのだが、そういうベタさがないところは流石。ニューヨークでのカーチェイスも含めた撮影、豪華な俳優陣、王道だが陳腐ではないストーリーと、ああ映画を見たなぁ、とちゃんと納得させてくれる作品。
おすすめ度(★5点満点)
★★★☆☆
まあ、3.5点かな? 話自体はまあそれなりに満足と言った感じなのだが、70年代の後半、映画産業自体が斜陽になっていく中で、多額の予算を用意して意気揚々と映画界に乗り込んできた角川春樹事務所のバックアップを得て、映画界が再びこの時代ならではの大作を作ったという点では非常に評価出来るし、またそこが見所でもある。