コロナ期の読書。 カミュ「ペスト」他

たまには本の話でもしよう。

最近、私にしては珍しく本を読んでいる。備忘録代わりに読んだ本の紹介でもしていこうか。

カミュ「ペスト」

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コロナウイルスが流行ってからまた読まれだした本。私も流行に乗って読んでみた。

群集心理の描写が巧み。コロナの発生から終息まで、おそらくこの小説通りの群集心理が働くのではないかと思った。もっともペストは封鎖された都市での話だが。

カミュは無神論者ということだが、ペストという異常事態下において、神の存在とか、それぞれの行動の悪意、善意と信心についてなどが丁寧に書かれていて面白かった。無神論者による宗教の検証というのが興味深い。

ヴィクトール・フランクル「夜と霧」

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ユダヤ人の精神科医、フランクルがナチスによって強制収容所に収監された時の克明な記録。

善悪、私情をなるべく排したドキュメンタリー・タッチの記述が逆に恐ろしさを際立させる。精神科医ならではの観察が素晴らしく、極限における人間の行動がよく分かる。

まあ名著には違いないが、再読したいか?と問われれば・・・それほど結構読み進めるがつらい。

遠藤周作「深い河」

宇多田ヒカルのアルバム「Deep River」は遠藤周作のこの本から影響を受けて付けられた、とか聞いたことがある。
いわゆる群像劇。みんな紆余曲折を経て、やがてインドのガンジス川で出会うのだが、主人公のひとりである大津という青年はイエスの生涯を模して書かれたものなのだろうか。

面白いけども、登場人物を少し削ってもっとソリッドな話でも良かったかな、とは思った。

安部公房「砂の女」

これは傑作でしょう。リアルさと不条理さのバランスがとてもいい。

砂に侵食されつつある部落に迷い込んだ男が捕まって、そこで生活させられる物語で、言うまでもなくナンセンスなのだが、男と同居する女の心情、部落の人間の団結、そして主人公の男の心の変わり方、全ての描写が見事。特にラストシーンが秀逸。思わず「何してんねん!(笑)」とツッコんだ。

安部公房「箱男」

「砂の女」があまりに面白かったので、続けて読んだのだが、こちらはちょっと不条理に重きを置きすぎているというか実験的過ぎるというか、「砂の女」ほどは引き込まれなかったかも。

まあでも2冊読んだだけだけど、この人の世界観は非常に独特。カフカ的? それともちょっと違うんだよなぁ。カフカはどこにも所属することが出来ない不安、不条理を書いているが、安部公房は日常の中に潜む不条理を書いているのかな。

もうちょっと作品を読んでみたいと思う。

遠藤周作「沈黙」

先にスコセッシの映画を見たけど、これは名作だったな。で、その次に原作を当たったんだけど、これもやはり名作。スコセッシが原作を読み込んで相当原作に忠実に映画を作ったのがよく分かった。

17世紀の長崎の隠れキリシタンと宣教師の話だが、この話は深い。隠れキリシタンがこれでもかというぐらい弾圧され、処刑されるのだが、神は沈黙を保ったまま。キリスト教の危機を聞きつけてわざわざ来日した宣教師も神の沈黙にやがて、神の存在そのものを疑ってしまう。

文章運びが非常にソリッドで読みやすいので一気読みした。

桐野夏生「OUT」上下巻


私は教養になりそうな本しか読まないエセ読書家なので(笑)、普段あまりこの手の本は読まないのだが、面白いとの噂を聞いて読んでみた。

正直にいうと異常な小説。一度、日常からはみ出し「OUT」な世界に踏み込んでしまった者は二度と日の当たる道を歩けない、というところを迫力を持って描いていて、たしかに上下巻、一気に読ませる吸引力があった。

ただ、この人の別の小説を読むか?と言われると考えてしまう。深夜の弁当工場に勤める4人の主婦が主人公たちなのだが、その底辺ぶりのリアルな描写が結構げんなりさせられる(笑) そこさえ抜ければ後は怒涛の展開。ラストシーンには賛否あるようだけど私は納得した。確かに狂ってるが、狂ってるからこそのこのラストだな、とは思った。

最後に。
私は小説は、今まで自分になかった視点を与えてくれる、あるいは完全に異世界に連れて行ってくれて、日常の煩わしいあれやこれやを忘れさせてくれる小説が好きなので(「夜と霧」は小説ではないが)、桐野夏生さんの小説に全く非はないのだが、底辺に生きてることを自認している私としては、あのリアリティあふれる底辺の人々の描写はちょっと読むのが辛かった。まあそれだけ素晴らしい筆致ということなのだが。

まあそんなことで、これからもマイペースで読書が趣味・・・というほどではないが、読書を続けていこうと思う。

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