遅ればせながらミッキー・ローク主演の『レスラー』をDVDで観た。ミッキー・ロークと言えば『ナイン・ハーフ』もそうだが、私は『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』の印象が強く、それだけに最初に顔がハッキリ見えた時は(なかなか見せない演出なのだが)、「・・・誰?」と思ってしまった。
大まかなストーリーはネット上に既に数ある映画評が書いてしまっているし、アマゾンのレビューのトップにはご丁寧にラストシーンすら書いてある。で、実際その通りの映画であるから困る。観る意味のある映画を観たい、と思うから、ついついレビューを見てしまうが、事前にあまりにレビューも見すぎるのもどうか、とちょっと思ってしまった。正直に言えば、ネット上で書かれているあらすじから、はみ出るようはシーンもなく、ストリッパーとの恋、娘との不和、などもそんなに劇的には描かれてない。なので、観た直後は、「確かにいい映画だけど、みんな激賞するほど感動もしなかったかな。」というのが正直な感想だった。
しかし・・・観て一晩経ってこうして記事を書いている訳だが、どのシーンも結構ズンと重く印象に残っている。割とありふれた”普通の不幸”である為に、なかなか映画の中だけの出来事、とは割り切れないのである。それを考えると、やはり主演のミッキー・ロークは凄かった。ミッキー・ロークが演じているのは分かっているのだが、どうしてもミッキー・ロークとは思えない。映画の中の『ザ・ラム』そのものにしか見えない。他の人気どころの役者ではこうはいかない。どこかで・・・例えばマット・デーモン演じる誰それ、として観ている。映画をあくまで映画の中だけのこと、として楽しむのも、それはもちろん良いのだが、この映画は、あくまで人生の悲哀を感じている人に、リアリティーを持って迫ってくる点で秀逸だし、ちょっと怖い。ま、それだけに、観た直後より少しこの映画の印象が良くなっている。
ラスト・シーンはある意味分かりやすいが、私としては監督の意思表示をしてほしかったかな、と思う。観客に判断をゆだねるのは良いが、あれは、映画の一番主要なテーマだからねぇ。枝葉末節のあの人達はどうなったろう?という謎を残すのいいが、テーマの結論・・・監督として世の中をどう捉えているか、は見せてほしかった。ラスト・シーンについてはおおむね肯定的な意見が多いようだけど。
ともあれ・・・派手さはないし、これは凄い!という様なストーリーでもないし、おまけに暗い(笑) ただこの映画には主演のミッキー・ロークを中心に、控えめなマジックと言えるシーンが数多くちりばめられている。優れた映画はキャスティングから始まって、撮影中のアクシデントからなにから、この時、この瞬間、このメンバーで無ければ、後にも先にも撮れなかったであろう、というマジックが隠されていることが多いが、それはこの映画にもある。
だから、観て、「あ、こんなもんか。」と思っても、心に残る物が多くて、決して「つまんねー映画観たなぁ。」とはならない、と思う。だからオススメ。実生活と地続きのエンターテイメント。ある程度の心の準備は必要だよ(笑)