昨年末の12月31日にNHK BS1で放送していた『鳥谷敬×青木宣親〜同級生 初めて本音で話しました〜』という番組を録画していて昨日見た。阪神ファンを長年やっている自分だが、正直鳥谷が長時間しゃべるところなんて全く見たことがなかったし、本当にプロ野球ファンか?と疑われるのを覚悟で書けば、鳥谷と青木が早稲田で全く同じ時期にプレーしていて、プロへの入団も同期だったということも知らなかった。
ふたりの早稲田大学時代。
番組内の対談で私が初めて知ったことと感想を交えて書いていきたいと思うが、まず鳥谷は早稲田大学で既に1年生でショートのレギュラーを掴み、早い時点からプロからも注目される選手だった。それに比べ青木が早稲田でレギュラーの地位を得たのは3年生からで、鳥谷はそれまで青木の存在自体を知らなかったという。青木が明かしたエピソードで面白かったのが、青木を含め他の選手達はユニフォームの背中にマジックで自分の名前を書き込むが、鳥谷だけはプロの選手よろしく、刺繍されたワッペンを既に背中につけていた、というもの。つまり1年生の時点では、鳥谷は既にプロを意識して野球をしていたが、青木はその他大勢の選手に過ぎなかったという訳だ。早稲田1年生でのこの二人の立場の違いと意識のギャップは印象深かった。
大学野球からプロ野球へ。お互いを見つめるまなざし。
やがて青木も早稲田でレギュラーを得て注目を浴びる選手になるわけだが、意外だったのが早稲田時代の青木は我が道を往くタイプの選手だった、ということ。鳥谷が大学時代の青木を振り返り、「みんなが青木に合わせる」「能力はあるのに不器用で、左にも打てるのに引っ張ってばかりいる」タイプの選手だったと明かしていた。そんな青木の姿を知っていた鳥谷は、青木がプロに入って神宮球場独特の人工芝の硬さを利用して叩きつけるバッティングで出塁したりというのを見て驚いたという。鳥谷は、能力は自分より青木のほうがあると分かっていたし、そういう選手に場面に合わせてバッティングを変えられるという技を覚えられたら適わないなぁ、と思っていたらしい。
一方の青木はやはり早稲田の1年生の頃からスターだった鳥谷をずっと意識していたらしく、スポーツ新聞で鳥谷の打率をチェックしたり、エラーなどが記事になっていたら、動画を見て、こんなエラーだったのか、などチェックしていたらしい。それを知った鳥谷の「え?動画まで見たの?」というリアクションがちょっと面白かった。
メジャー挑戦。ふたりがそれぞれ進んだ道。
鳥谷はプロ1年目から不動のショートのレギュラー、青木はレギュラーを獲得した2年目からいきなり200本安打とそれぞれ順調なプロ野球選手としてのスタートを切るが、やがて青木は大リーグ挑戦を決意。青木はヤクルトに在籍した最後の2〜3年はモチベーションの低下に苦しんだらしく、大リーグへの挑戦もむしろ家族に応援されてという側面が強かったという。最初のメジャーの契約は決して恵まれたものではなかったが、それもまたチャレンジするという意味ではよい励みになったと語っていた。
一方、鳥谷も30歳を超えてからメジャー挑戦を決意したが、満足のいく契約が得られず断念。阪神との複数年契約を結ぶこととなった。鳥谷曰く、若い頃の独り身の時分に思っていたメジャー挑戦への夢と、結婚を経て嫁子供を養わなければならないという現実を見据えた上でのメジャー挑戦では、自ずと責任も異なり、メジャーへ行くという自分の夢をこれまでの生活レベルを維持するためのお金であったりとかの現実に落とし込むには、きちんとしたメジャー契約というのが最低限必要なことであり、自分が望む条件が提示されなかった以上、メジャーへの夢はすっぱり諦めて日本でプレーを続行するということだったらしい。
この辺りの青木と鳥谷の考え方の違いは非常に興味深く聞いた。メジャーへの挑戦を新たなモチベーションとして将来も見えない中でアメリカに飛び込んでいった青木と、お金の面など現実をしっかり見据えながら冷静にアメリカには行かない、という決断を下した鳥谷。私は青木の行動力にも共感したし、また鳥谷の冷静な判断にも共感した。生活レベルを維持したいということを隠さずに告白した鳥谷は正直だな、とも思った。青木も鳥谷もそれぞれに下した結論は違ったが、それぞれに適した良い判断をしたと思う。ここでNHKのディレクター(?)が鳥谷に対して、青木に対してうらやましいという感情はなかったか?と聞いたが、鳥谷は、うらやましい気持ちはあるが、それよりも日本でやると決めた以上、自分の下した結論が正しかったと証明するためにも、しっかり気持ちを切り替えて、自分の選択が間違いだったということにならないよう、すぐさま準備することに集中した、と言っていて、流石だなと思ったし、また阪神のレギュラー選手であるという立場がそうさせるのかなとも思った。
連続試合出場記録。鳥谷の思い。
話は鳥谷の連続試合出場記録に及んだ。鳥谷曰く、打力に優れた人、走力に優れた人、守備に優れた人といるが、自分はそのどれも平均点以上の選手かもしれないのでレギュラーを張れているいるが、打力が欲しい場面、守備力が欲しい場面では交代させられてしまうかもしれない。そういった中で使い続けてもらうには、とにかく休まないイメージを作ること。そのイメージをチームに植え付け、また自分自身に暗示を掛け、準備して来た結果が今の連続試合出場記録に繋がっている、とのことだった。また、そこには変えられて他の選手が活躍した時に連続して出場機会を失う恐怖心もある、とも言っていた。
鳥谷といえば、最近守備に衰えが見え始めたとは言え、攻守に高いレベルにある選手だったので、自信を持ってプレーしているのかと思っていたが、謙遜もあるのかもしれないが、鳥谷自身は自分のことを突出した能力のない選手として捉え、常に危機感を持っていた、というのは意外は話だった。まあそういった危機感が、これまでの鳥谷の安定した成績を支えていたのだろう。
青木がメジャーで学んだこと。
青木がメジャーに言って感じたこと。それは野球を楽しむこと、また褒めることの大切さだという。ある時、青木が練習でイージーな外野フライを一歩も動かずに取ったら、コーチに褒められ、最初はバカにしてるのか、と心外に思ったそうだが、2、3年もするとそういったことに乗せられている自分に気がついたという。アメリカのコーチはとにかく褒める表現の引き出しが多く、例えエラーをしてもトライしたという過程を褒め、選手をやる気にさせる。そうやって褒められ、認めれた人がやがてメジャーリーガーになり、コーチになるから、ダメだと言われることはほとんどなく、青木自身もプレッシャーから開放され、楽しく野球が出来ているらしい。
こういったアメリカの指導の仕方は素直に素晴らしいな、と思う。認められればうれしいし、より上達したいと心から思えば、例えばロードワークなどの地味なトレーニングも上達するために必要なことだから、と進んで取り組むようになる。私は仕事でも同じではないかと思う。日本人は仕事を楽しむことに罪悪感を覚えるような人が未だに多いが、修行ではないのだから、楽しんでやればいいと思う。人は結果を出し始めたり、認められれば、自ずとそのポジションを維持するため、あるいは更に上達するために勝手に自己研鑽を始めたりするものである。こういう特にメンタル面での指導については残念ながら日本は相当遅れているなぁ、と感じる。
ふたりの将来。
現役を終えた後のふたりの将来に話が及んだが、ここは大きく意見が別れた。青木はとにかく野球に携わる仕事がしたい、ということだったが、鳥谷は出来れば野球とは全く関係ない仕事をしたいらしい。というのも、自分自身の今があるのはもちろん野球のおかけだが、それ以外のことを出来る自分にも期待を掛けていて、野球関連の人たちの連絡先を全て捨てて、やり直してもいいぐらいの気持ちらしい。
これを聞いて私はちょっと驚いた。冷静に自分を客観的に評価出来る鳥谷であれば、異業種でも成功できるかな、とも思ったが、この発言を聞いて一番感じたことは、大学1年からプロ入りを目指し、ひたすらバッティング、捕球、スローイング技術を磨き、また阪神でも1年目からレギュラーでずっと重圧が掛かる中、野球を続けてきて、少なからず野球に対する鳥谷のモチベーションの維持も限界点にあるのかな、ということ。鳥谷が阪神に居ながら感じているプレッシャーは俗人には計り知れないものがあると思う。
鳥谷の目標。
最後に、現役をどう締めくくるか、という話に。青木は、ボロボロになるまでやりたい派、鳥谷は、引き際を美しく飾りたい派、ということであった。鳥谷曰く、鳥谷が代打として1枠設けてもらうぐらいなら他の人にその枠を使って欲しい、とのこと。鳥谷は青木の意見を聞いて思わず「お前、本当に野球が好きなんだな!」と漏らしていた。
一番最後には鳥谷が「それじゃあ今度は俺が青木を意識して、お互いどれだけ現役を続けられるかを目標にするわ。」といい、長いふたりの対談が終わった。
最後に。
なかなか見応えのある対談だった。お互い本音をぶつけながらも、ところどころ天然で明るい青木に対して標準語で冷静にツッコむ鳥谷がいて、あれだけ関西にいながら全く大阪に染まらない鳥谷ではあるが、あれだけツッコむのはやはり仲が良いからなのか、それともやはり関西でツッコミの習慣を身につけてしまったのか・・・といろいろ勘ぐってしまった。
まあそれはともかく、前にも少し書いたが、青木の考え方にも共感するし、鳥谷の考え方にも共感する。メジャーにいったから立派で日本に残ったからダメという印象も全くなく、それぞれの決断までの過程をそれぞれ本人の口から聞けたのは良かった。また野球観や引退後の身の振り方も対照的でこれも非常に興味深かった。ベタな感想になるが、こういう同年代で同じく活躍するライバル、そして友がいることがどれだけ素晴らしいか、ということを感じさせてくれる素晴らしい対談だった。スイッチ・インタビューみたい他業種の人達が語りあうより、同業で同窓の二人がとことん話し合う方が面白いかも。