私は、カズオ・イシグロは「日の名残り」と「私を離さないで」の2作しか読んだことがないんだけど、どちらも非常に印象に残る作品だった。ある種の、とても判断の難しい普遍的な事象にぶつかる登場人物達がそれぞれの人の、その人らしいやり方で、物事を解決したり、あるいはこじらせたりするのだが・・・まあそれはどの小説でもそうだろうが、その後ろにカズオ・イシグロ氏の優しく静かに見つめる眼差しを感じるというか・・・。私は、作家じゃないんで表現が全く及ばないのがもどかしいが、良いにせよ、悪いにせよ、そのどちらにもそっとイシグロ氏が共感を寄せている、切なさと優しさを感じる作風である、と思った。
さて・・・そのカズオ・イシグロ氏が、掲題の番組で、数十人の受講生(?)を前に「人はなぜ小説を書くか? あるいは読むのか?」という問いに問答を繰り返しながら、しつこくその点について言及してみせる。そして、現代の英文学のトップランナーともいえる氏が、その創作手法について、ほとんど手の内を明かしてしまっている。まあ、だからと言って、真似を出来るものでもないのだが・・・。今回は、生い立ちやそれぞれの作品の詳細は省くとして、私が特に印象に残った氏の発言をいくつか書き残して起きたいと思う。
続きを読む